まずヘリウムがつくられた

宇宙のもっと昔はどうなっていたのでしょう。さらにさかのぽり、どんどん温度が上がっていくと、原子核ですら存在できなくなります。原子核をつくっている陽子と中性子を結びつけている力は「強い核力」と呼ばれ、電子と原子核を結びつける電気力よりはるかに強いことが知られています。そのため原子核は、原子が壊れるような高温でも存在できるのです。

しかし、温度が100億度くらいになると、光のエネルギーは原子核すら壊してしまいます。ビッグバンから1秒後の温度が100億度ですから、それ以前に原子核は存在せず、陽子、中性子、そして電子が自由に飛び交い、ひんぱんに光とぶつかっていたのです。もっと時間をさかのぼってみましょう。現在の素粒子論では、陽子や中性子は素粒子(これ以上分割できないという基本粒子)ではなく、「クォーク」と呼ばれる基本粒子が3個集まってできたものとされています。クォーク同士を結びつけている力は「強い力」と呼ばれ、原子核を結びつけていた強い核力の原因になっている力です。

ビッグバンから10万分の1秒後、温度が1兆度になると、陽子、中性子が壊れ、それらをつくっていたクォークが自由に飛び回るようになります。このように、宇宙のはじめは物質が何の構造物もつくらず、バラバラの素粒子として存在していたのです。したがって、さらに初期のころを知るには、素粒子論の知識が必要になってきます。

クォーク同士が結びついて陽子や中性子ができたころから、順を追ってみましょう。ビッグバンから1秒後、温度が100億度くらいになると、陽子と中性子のエネルギーはお互いの強い力を振りきれず、原子核をつくり出します。いちばん単純で安定な原子核は、陽子一個からなる水素の原子核を除けば、陽子2個と中性子2個からなるヘリウム原子核です。

星の内部でも、同じように陽子と中性子が融合してヘリウム原子核がつくられま
す。しかし、宇宙のはじめと星のなかでは状況が違います。星のなかでは、陽子と中性子の合計4個から、たった一個のヘリウム原子核かつくられるので、圧力に寄与する粒子の数が減り、中心のヘリウム原子核からできた領域が、その重力のため収縮します。すると温度が上がって、ヘリウム原子核同士が融合する反応が起こり、さらに複雑な原子核をつくっていきます。

宇宙のはじめでも、このような核反応が進んで、多くの種類の原子核がつくられたのでしょうか。そうではありません。宇宙のはじめは星の中心のように超高温ですが、星の場合と逆に、宇宙膨張のためにだんだん温度が下がっていきます。したがってヘリウム原子核の生成に引きつづいて起こるはずの核反応が起こらず、元素の合成はビッグバンの3分後に、基本的にはヘリウムをつくるだけで終わってしまいます。

つくられるヘリウムの量は、陽子と中性子の割合で決まり、重量比で全体の23パーセント前後と計算されています。残りのほとんどは陽子です(全体として物質は電気的に中性であるので、電子の数は陽子と同じだけあるのですが、電子は陽子の1000分の1と軽いので、重量にするとほとんど無視できます)。ちなみに、炭素や酸素などわれわれの体をつくっているもっと複雑な原子核は、星のなかやそれが爆発するときにつくられたものであり、宇宙の時間スケールではごく最近のできごとです。

自由に飛び交っていた陽子とヘリウム原子核は、ビッグバンから10万年後、宇宙の温度が3000度に下がったとき、電子をつかまえて中性の水素原子、ヘリウム原子になることができたのです。それと同時に、宇宙が晴れ上がりました。その後、物質の小さなゆらぎから最初の天体ができ、現在見られるような宇宙の構造ができていくのです。最初にできた天体か何であるかは、いまのところ定説はありません。銀河あるいは銀河団、超銀河団かもしれません。また、巨大な星という研究者もいます。

— posted by 宇多元 at 05:03 pm