いまから70年前、アメリカのハッブルという天文学者か、奇妙なことに気づきました。当時はようやくアンドロメダ星雲のような天体が、われわれの銀河系のなかではなくはるか彼方にあり、われわれの銀河と同じくらいの大きさであることが知られたばかりでした。というわけで「星雲」ではなく、「アンドロメダ銀河」と呼ぶほうが適当でしょう。
ハッブルは、遠方にある多くの銀河を観測しているうちに、それら銀河のほとんどすべてがわれわれから遠ざかっており、しかもその速さは遠くの銀河ほど大きなことに気づいたのです。四方八方の銀河が遠ざかっていくということは、われわれが宇宙の中心にいることを意味するのでしょうか?
われわれが宇宙の中心にいるというのは優越感をくすぐる考えですが、そんなことはありそうもないと科学者は考えます。ハッブルはこれを「宇宙が膨張しているからだ」と説明しました。銀河自信が運動しているのではなく、銀河と銀河の間の空間が伸びているというのです。そんなことは可能でしょうか?
ハッブルの解釈に複雑な思いを感じたのは、アインシュタインです。彼はハッブルの発見の10年以上も前に、空間が膨張あるいはその反対に収縮する可能性を指摘していました。アインシュタインの一般相対性理論と呼ばれる重力の理論では、物質の存在はそのまわりの空間を曲げ、そればかりか時間までも遅らせるのです。宇宙のなかの物質は全体として、空間を伸ばしたり、縮めたりするのです。アインシュタインは一般相対性理論を宇宙全体に適用し、このことに気づきました。
ところが彼は、「宇宙は不変であり、宇宙にははじめも終わりもない」と固く信じていました。このため今日、「宇宙定数」と呼ばれる重力と釣り合う力を導入し、膨張あるいは収縮を力ずくで止めてしまったのです。ハッブルの発見を知ったとき、アインシュタインは宇宙定数を導入したことを後悔したといいます。じつは、アインシュタインがつくったはじめも終わりもない静かな宇宙は、ちょっとつつくとすぐ膨張あるいは収縮しだすような、きわめて不安定な宇宙であることがわかっています。彼の永遠の宇宙はしょせん、はかない夢だったのです。
宇宙が膨張しているということは、たとえば現在、われわれの銀河から10億光年離れた銀河は、過去の宇宙ではもっと近くにあったことになります。その銀河がどれだけの速さで遠ざかっているのかがわかれば、いつその銀河がわれわれの銀河に重なっていたか、つまり「いつ宇宙がはじまったか」がわかるはずです。そうして出てきた答えが、100億年なのです。遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかっているので、すべての銀河はわれわれからの距離に関係なく、100億年前には一点に集まります。
じつは、距離の測定は非常にむずかしく、現在のところ遠くの銀河の距離は正確にはわかりません。一部の研究者は、宇宙年齢はむしろ200億年くらいと主張しています。ここでは100億年ということで話を進めましょう。いうまでもありませんが、われわれの銀河が宇宙の中心に位置しているわけではありません。10億光年先の銀河に住んでいる宇宙人から見ると、われわれの銀河か彼らから遠ざかっているように見えるのです。
要するに、時間をさかのぼればどの銀河同士の間隔もだんだん小さくなっていって、100億年前には間隔がゼロになり、すべての銀河が重なっていたのです。もちろん、その上うな時期には銀河は存在しないので、実際に銀河が100億年前に重なるわけではありません。100億年前、宇宙がどうなっていたのかを知るには、もうひとつの観測事実が必要なのです。